埠頭を渡る風、を聴きながら
ユーミンと言えば、荒井由美時代のアルバムがとても好きだ。歌として素晴らしいだけでなく、ティンパンアレイのサウンドがもう最高で演奏もアレンジもケチのつけようがない。
この時代のユーミンの歌詞は本当にリリカルで、その時々の感情や見ている風景とともに書き手の精神性がとてもよく伝わってくる。
当時のユーミンの年齢から考えれば、平均的な同世代よりもはるかに大人っぽく、その言葉遣いからは教養の深さを感じさせ、しかも気が強く、既にいろんな経験を積んでいることをうかがわせる。
外交的にして内向的。そんな矛盾を平気で自分の中に同居させられる器の大きさ。そう、詩人と言うものは、本来、遊び人なのだ。自分の内的な生真面目さと、自分の外側への冒険心を、どちらも満足させたい生き物。
自分を縛り付けたりするものを冷たくあしらい、新しい体験をさせてくれる場所へと出かけていく。そして見える新鮮な風景を、言葉や音楽に変えていく。
そんなユーミンが荒井由美から松任谷由実になりしばらくしてからリリースしたアルバム「流線型"80」 は僕にとっての完璧作品。どの曲を聞いても完全にその世界に引き込まれてしまう。この時期のユーミンの曲はどれも短編小説のようで、歌詞の世界観設定は一曲毎にしっかりと完結している、
中でも好きなのは「埠頭を渡る風」。
その歌詞は僕にはこんな風に思える…
クルマで夜の埠頭にきた2人。いつもは強気な男の弱さにグッとくる女。でも言葉にしたくない。心の言葉が思いとして刻まれていく。ありきたりの慰めなど口にできない。自分よりも大きいと思っていた男が小さく見えている今、支えになりたいと願う…ストイックな感情。
にもかかわらず、青いとばりが道の果てに続いてる。それはセクシーな期待感を暗示している。クルマは走り出している。
ラブソングにありがちなベタな言葉を1つも使わずにその時の女の感情を全て語り尽くすようなこの曲のユーミンの歌詞には惚れてしまう。本当に天才だなぁって思う。なぜならこの歌詞を完全に表現する世界観の曲までを自身で作っているのだから。
まぁ、一方で「天城越え」のような恋愛感情のベタな比喩表現と言うのも面白いと思う。しかし恋心における単純ではない感情を描き切るのは、やはり本人の資質の問題だと思うのだ。この点が職業的な作詞家とシンガーソングライターの違いではないか。
月並みのラブソングの対極にある3D的な恋愛感情の表現。この時期のユーミンは本当にヤバイ。
埠頭を渡る風
作詞:松任谷由実 作曲:松任谷由実
青いとばりが道の果てに続いてる
悲しい夜は私をとなりに乗せて
街の灯りは遠くなびくほうき星
何もいわずに 私のそばにいて
埠頭を渡る風を見たのは
いつか二人がただの友達だった日ね
今のあなたはひとり傷つき
忘れた景色探しにここへ来たの
もうそれ以上 もうそれ以上
やさしくなんてしなくていいのよ
いつでも強がる姿うそになる
セメント積んだ倉庫のかげで
ひざをかかえる あなたは急に幼い
だから短いキスをあげるよ
それは失くした写真にするみたいに
もうそれ以上 もうそれ以上
やさしくなんてしなくていいのよ
いつでも強がる姿好きだから
白いと息が闇の中へ消えてゆく
凍える夜は 私をとなりに乗せて
ゆるいカーヴであなたへたおれてみたら
何もきかずに横顔で笑って
青いとばりが道の果てに続いてる
悲しい夜は私をとなりに乗せて
街の灯りは遠くなびくほうき星
何もいわずに 私のそばにいて
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