作り手を自覚するなら、振り返るな。

新世紀エヴァンゲリオンの生みの親・庵野秀明が、エヴァを作ろうとしてその原案を、彼の師ともいえる宮崎駿に相談したときのハナシはよく知られている。「そんなものは作らないほうがよい」と宮崎駿は言ったという。
僕らの60年代生まれは、手塚治虫、藤子不二雄、水木しげるといったパイオニア達が切り開いた漫画黎明期の土壌の上に花開いた豊穣なる作品群と、さらに続いた今や大御所となった作家たちの登場とその後の活躍をリアルタイムで目の当たりにできた世代である。

それはアニメについても同じことが言えて、黎明期と隆盛期、そして百花繚乱にいたるプロセスをまるごと体験してきた。東映動画〜ジブリをひとつのメインストリームと捉えるなら、そのライバル、そしてアウトサイドにおいてもひしめき合う意欲的な作家・作品を同時代体験してきた。実写の特撮ヒーローものについても同様のことが言えるだろう。日本に始まったこの文化ムーブメントは100年後にはなんと呼ばれるのだろうか?今後、研究が進み時代背景などともに幅広い視点から論じられるにつれて、ルネサンスのような一時代の文化の在り方を指し示すことになれば嬉しい。私たちはこの点において、本当に本当に幸運な世代と言って差し支えないだろう。
ちなみに庵野監督は1960年生まれ。大学中退し、宮崎監督のもとで作画をしたのがキャリアのはじまり。ナウシカに登場する巨神兵が庵野デザインであるのは有名である。
もちろん庵野監督は師の言葉には従わなかった。
60年に生を受けた庵野監督が、エヴァを製作放映したのは1995年。謎がなぞを呼ぶストーリー展開、表現手法にさまざまな新機軸を持ち込んたこのアニメは、なによりも碇シンジというナイーブでひ弱なヒーローを設定し、彼に訪れるさまざまな試練をタテ糸に物語が進行し、驚くべき反響を呼んだ。なぜそこまで大きな反響を、共感を得たのか?そのとき現実世界の行き詰まり感は高まり、そして権威の失墜があり、父性の喪失があったからだと僕は捉えている。手塚治虫が扱ってこなかった、宮崎監督も提示しなかったものが、このエヴァには横溢していた。同世代の庵野監督がどこからエヴァを構想したにせよ、これは彼以前の世代にはなかった時代感覚であり、彼自身の世界観なのだ。なによりも重要なのはそこだ。
さて、最近、気になることがある。それは60年代世代がこれから続々と還暦を迎えること。この先どれだけ生きるチカラを持続していけるのだろうか?

あの時代には名作が多かった、それに引き換え、今のヤツらときたら…人間、そういう「昔は良かった」風のことを口に出し始めたら、衰えた証拠らしい。
その時代にはその時代の胎動があり、その時代ならではのものが生まれてくるのは、歴史を振り返れば一目瞭然。子どもの目線は初々しい、若者の感受性は鋭い。

作り手を自覚するなら、振り返るな。

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