ハミル師(9)

今日ばかりはいつもより「個人的」に、
ピーター・ハミル2018年来日ライブ
最終日レビューを書こうと思う。
「ですます調」から
「のだ・である調」にスイッチして。

今回の来日公演は3日間。
2日目中日にあたる17日のみは、
参加者リクエストからの選曲という
前代未聞のスペシャルライブとなった。
参加者は45人、そのリクエスト曲数が
なんと45曲とは信じがたいハナシだが、
その中からハミル師が演奏したのは、
どれも普段やることのない曲ばかり。
しかも終盤に至り怒涛の大作二曲✴︎をやり、
もう聴く側としては、
イントロだけでアドレナリンが噴き出し、
瞬きもできぬままに一言一句に集中して、
聴き終えた瞬間には、
至福のカタルシスを味わうばかりになった。

しかし、である。

それでも僕は餓えを感じた。
いつものライブで、ハミル師が歌う
あの曲が聴きたい。
いつもよりもさらに。
このライブがそうさせたのだ。
過去にハミル師は4日間に及ぶ公演にて、
一曲のカブりなく演奏したほどの人である。
そのなかでも定番といえる曲たちが
やはりある。
約四半世紀に及ぶ来日公演活動のなかで、
特に近年は必ずセトリに加える一群の曲。
秋の風物詩、というワケではないが、
それは年一度、秋に来日するハミル師の
「フツーのうた」なのである。
もちろんそれは僕にとってだけではない。
ハミル師のうたを愛して止まない、
あるいは必要とする全ての人が
求めているものだと思う。
フツーのうた、ハミル師のフツーのうた。

それが聞きたい。

昨夜は3日目最終日、
足は自然に新宿ピットインへ向かい、
着いてまもなくショーは始まる。
会場の中央後方に立ったままで、
最初から最後まで聴けたおかげで、
最高の音場で受け止めたハミル師の演奏。
冒頭のThe Siren Songからピアノで5曲。
近年のハミル師は絶叫表現は少なめだが、
声の伸びが素晴らしく、
演奏全体としてのバランスがとてもよい。
ギターに持ち替えての7曲は、
神曲The Comet,the Course,the Tail から
スタートし、怪曲Patientで締めくくる。
エンジニアが何度か出てきては卓に戻る。
その度にギターの中低域が微妙に持ち上がり
アコースティック鳴りの膨らみが増す。
再びピアノに戻ってLosing Face in Words。
躍動的な曲と穏やかな曲を順にやりながら、
ついに神曲 A Way Outを。
out of order,out of date,out of control…
あらゆるアウトを挙げ連ねていきながら、
ひとつの出口(A Way Out)を探るように歌う
ハミル師の言葉の響きに持って行かれる。
そしてラストは緊張感の極致Traintime。
印象的なピアノの連打に載せて、
破綻寸前まで張り詰めていくこの歌は
ハミル師にしかできない唯一無比の世界。
今回も無事終わってホッとする。
そしてアンコールでは佳曲A Better Time、
つづいて希望あるYour Time Starts Nowを。
ここで気づくのだ
3曲続けでTimeを並べたな、と。
ハミル信奉者にとっては、
こういう師の遊びに気づくのもまた一興。
セトリのなかには近作From The Treesからの
数曲があり、練り込まれた端正さから、
最近頻繁に歌われていることがわかる。
ここからハミル師のこれからのライブで、
中心を担っていく曲が育っていく…
この日の演奏曲、なんと19曲!

あと、何年、ライブを聴けるのだろう?

ついこのあいだの11月5日、
ピーター・ハミルさんは古希を迎えた。
いくら頑健な人であれ
これからは飛行機の旅はツラくなる。
毎年来るのはどうだろうか?
そんなことを考えてしまう。

ハミル師はA Better Timeで歌う。
生きるのに、今以上の時はない、と。

僕は中学生のときに師の音楽に出会い、
自分が精神的な危機を迎えたときに、
師の歌詞を読み、
そこから生きるヒントをもらった。
僕がピーター・ハミルさんを
勝手に師と呼ぶのは
なればこそ。

歌い方を真似したいとは思わないし、
似たような音楽を作りたいとも思わないし、
トリビュートバンドなんてありえない。
そんなことはとてもできない。
インデペンデント(独立)を生き方にする
ハミル師を小手先でマネて、
ピーター・ハミルを理解している、とは
僕にはとても言えない。

でもハミル師の曲は歌いたい。
それはいいことではないだろうか?
この先必要なことではないだろうか?
昨夜の最終公演のセトリは
まさに僕のためのもののように感じた。
なぜなら聴きたい曲、
これから歌いたい曲が全部あったから。

人はいつか去りゆく。
歌はここにとどまる。

だから。

✴︎A Louse is not a Home
   Man-Erg
Photo ©︎ 前沢春美
写真提供 : Real & True

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